2025年10月 OPEN
【Pâtifer パティフェル】
里山の自然と調和した、楽しく美しい「出来立てデザートコース」
2025年10月 OPEN
【Pâtifer パティフェル】
里山の自然と調和した、
楽しく美しい
「出来立てデザートコース」
紀美野町の山中にたたずむ一軒家パティスリー「Pâtifer(パティフェル)」。
オーナーパティシエの松本さんは、一流ホテルで修業した腕ききのパティシエです。
コロナ禍をきっかけに新たな表現に出会った松本さんが、
移住創業で叶えた「目の前のお客さまと向き合う幸せ」。
紀美野町で紡ぐ日々を聞きました。
紀美野町の山中にたたずむ
一軒家パティスリー「Pâtifer(パティフェル)」。
オーナーパティシエの松本さんは、
一流ホテルで修業した腕ききのパティシエです。
コロナ禍をきっかけに
新たな表現に出会った松本さんが、
移住創業で叶えた
「目の前のお客さまと向き合う幸せ」。
紀美野町で紡ぐ日々を聞きました。
【Pâtifer パティフェル】
松本 和樹 / オーナーパティシエ
Uターン起業
和歌山県岩出市出身
甘いものが好きで飛び込んだお菓子の世界
ホテルの最前線で駆け抜けた日々
甘いものが好きで
飛び込んだお菓子の世界
ホテルの最前線で駆け抜けた日々
─ 松本さん、本日はよろしくお願いいたします。岩出市のご出身と伺っています。まずは、パティシエになられたきっかけと、これまでのキャリアについて教えてください。
松本:岩出の高校を出てから、製菓専門学校に進学して大阪に出ました。チョコレートやアイスクリームが大好きだったので、「自分で作ったら楽しそうだし、何より食べ放題だな」と思ったのが始まりです。本当に軽い気持ちでした。
─ 食べ放題、確かに!(笑)そこから、大阪や神戸の高級ホテルでキャリアを積んでいかれたんですね。
松本:専門学校の先生がホテル出身で、「ホテルに就職すれば、ウェディングケーキもレストランのデザートも、お店で売るケーキも全部できるようになる」と勧めてくれたんです。当時は方向性も定まっていなかったので、「確かにそうだ」と素直にホテルを選びました。
4つ星ホテルからスタートして、大阪で一番ステータスが高いと言われるホテルまで、キャリアを順調にステップアップさせることができました。ホテルのクラスが上がると、使える食材のグレードも上等のものになり、周りのスタッフもキャリアのある人ばかりになっていくので、刺激的な環境でしたね。
─ まさにパティシエとしての王道を歩まれてきたんですね。そこからなぜ、和歌山に戻ってこられたんですか?
松本:自分が作っているエクレアやマカロンはフランスのお菓子なのに、僕自身はフランスに行ったことがなかったんです。「これって、『日本に行ったことがない外国人が、寿司職人を名乗ってカリフォルニアロールを作っている』みたいな状況で、けっこうヤバいんじゃないか」と思ってしまい(笑)。
それで、2020年にホテルに退職届を出して、フランス行きの計画を立てました。ところが、ちょうどコロナ禍と重なってしまって、渡航できなくなってしまったんです。仕事はもう辞めることになっていたので、一旦和歌山に帰ってくることになりました。
フランスで購入した思い出のクグロフ型を手に
「誰のために作るのか」
ヴィラ・アイーダで出会った
新しい価値観
「誰のために作るのか」
ヴィラ・アイーダで出会った新しい価値観
─ そこから、世界的にも有名な岩出のイタリアンレストラン「ヴィラ・アイーダ」の小林寛司シェフのもとへ研修に行かれています。これはどういった経緯だったんですか?
松本:もともと岩出に住んでいた頃から、お店の前をよく自転車で通っていて、存在は知っていたんです。その後、専門誌を読んでいたらヴィラ・アイーダさんが載っていて、「え、あのお店やん!」と驚いて。食べに行って、お料理にものすごい衝撃を受けました。それからずっと「和歌山に帰ったら絶対に研修に行こう」と心に決めていたんです。
─ ホテルでのきらびやかなお菓子作りと、自ら畑を耕しその日の野菜と対話するように料理を作るヴィラ・アイーダさんの世界観は、かなり違うように感じます。
松本:全然違いました。ホテルでは「Mサイズのイチゴを何キロ」と発注すれば、粒まで完璧に揃ったものが届くのが当たり前です。でもアイーダさんでは、1つひとつ形が違うのが普通。毎日違う野菜が採れるから、毎日盛り付けも少しずつ変わるんです。「だって昨日と野菜が違うんだから、同じだったらおかしいでしょ」という考え方を教えていただきました。ものすごい刺激になりました。
その日の果物の味や形でお菓子も変わる
─ お菓子作りの価値観も変わりましたか?
松本:変わりましたね。ホテルでは、1日に何百個と同じケーキを作ることもあります。誰のために作っているのかもわからないのが普通です。キッチンでただひたすら作り続けて、自分がロボットのように感じてしまう瞬間もありました。
しかし、アイーダの小林シェフは、1日1組のお客さまのために「今日は寒いからスープを作ってあげよう」といったふうに、目の前のお客さまに向けてお料理をされていました。その姿を見たときに、「もう、都会に帰って働こうなんて気は、1ミリも起きないだろうな」と確信をもちました。
─ 研修の傍ら、ご自身でも農作業を始められたと伺いました。
松本:コロナ禍だったので、他の場所に働きに行って感染してしまったらマズいと思い、アイーダさんに行かない日は、紀美野町にある祖母の畑を手伝うようになりました。柿や山椒を育てているんですが、そこで初めて農作業の本当の大変さを知りました。
草刈りひとつとっても腰は痛いし、収穫も1日がかり。自分でやってみたことで、農家さんの苦労がより深くわかるようになり、感謝の気持ちが増しました。食材を無駄にしてはいけないと強く思うようになりましたね。今では、形の悪い規格外イチゴや傷のついた柿なども積極的に使わせてもらっています。切ってしまえば味は同じ。偶然ハート型のイチゴなんて来たら「ラッキー!」って思いますね(笑)。
祖母の畑で採れた柿を製菓用に漬け込む
─ その後、フランス行きを果たしたことで、いよいよご自身のお店を持とうと決断されたのですか?
松本:コロナが落ち着いた2023年に、念願のフランスへ行くことができました。ただ実は、独立を強く決意したのは、フランスでというより、帰国した直後のことなんです。
ヴィラ・アイーダさんが比叡山で開催した大きなイベントに、お手伝いとして呼んでいただいたんですが、そこには日本を代表するシェフたちがずらりと集まっていました。皆さんが自分のお店を持って第一線で活躍されている姿を目の当たりにしたとき、「自分だけ何もしていないな」とすごく焦ったんです。「自分のお店を持とう。今のままではマズい」と、そこで大きく背中を押されました。
愛用の製菓道具は手入れを欠かさない
あえての「デザートコース」
その一瞬しか味わえない
出来立ての感動
あえての「デザートコース」
その一瞬しか味わえない出来立ての感動
─ 今のお店では、ショーケースにケーキを並べるのではなく、完全予約制の「出来立てデザートのコース」と焼き菓子のみの販売という珍しいスタイルを取られていますね。
松本:最初からショーケースを置く気は全くありませんでした。山奥で普通のケーキ屋さんをして、お客さんが並ぶ光景は想像できませんでしたし、きっと廃棄になるばかりだろうと。それなら、せっかくここまで足を運んでくださるお客さまに、ここでしか味わえない「美味しいタイミング」のものを出そうと思ったんです。
─ 「出来立てのデザート」とは、具体的にどんな体験なんでしょうか?
松本:例えばスフレは、オーブンから出して2分ほどでしぼんでしまいます。だから、温かくてふわふわに膨らんだ状態を食べられるのは、その場にいる特権です。マドレーヌも、焼きたてはハチミツの香りがふわっと立つんです。それは僕たちパティシエが味見をして知っている味なんですが、一般のお客さまはなかなか食べる機会がありません。
ショートケーキも、持ち帰る前提だと、形を崩さないために生クリームを硬く泡立てないといけませんが、ここで食べていただくならその必要はありません。だから、パティフェルでは、ケーキにとろんとろんの滑らかな生クリームをかけてお出ししています。お客様も「こんな滑らかなショートケーキは食べたことがない!」と驚かれます。
お客様の喜ぶ顔を想像しながら盛り付ける
─ コースとなると、甘いものが続いてしんどくならないか少し心配だったのですが……。
松本:実は、ただ甘いものを並べているわけではないんです。コースの中に、塩味や苦味、酸味のあるものを織り交ぜて、さらに温かいものと冷たいものの温度差も計算して構成しています。だから、最後まで飽きずにフルコースのような感動を味わっていただけると思います。
─ カフェというより、特別な「体験」ですね。
松本:以前の私のように、都会で働いて疲れ切った人たちが、たまにここへ来て一休みしてくれたらいいなと思っています。周りの自然を眺めながら、お菓子作りが得意な友だちのお家に呼ばれたような気分でゆっくりと過ごしていただく。お誕生日やプロポーズなど、貸切ならではの自由なアレンジも歓迎しています。
甘い香りとできたての温度感。フレッシュなおいしさを提供
紀美野町は
「みんなが助けてくれる町」
補助金とサポートを活用して
形にした理想の空間
紀美野町は「みんなが助けてくれる町」
補助金とサポートを活用して形にした理想の空間
─ 岩出市のご出身ですが、なぜ紀美野町で起業しようと思われたんですか?
松本:色々な地域で畑付きの物件を探したんですが、希望の条件に合わなくて、最終的に紀美野町にたどり着きました。紀美野町は移住や起業へのサポートがとても手厚かったんです。
─ 役場や商工会からは、どのようなサポートがありましたか?
松本:本当にたくさん助けてもらいました。役場のまちづくり課の方は、新しい空き家物件が出たらすぐに電話をくれて見学させてくれましたし、この物件もそうやって紹介してもらいました。
商工会の担当者の方は僕と同い年で、事業の助言から計画書の策定まで、一から指導してくれました。手厳しいことも言われましたが、その伴走があったおかげで創業補助金を獲得し融資も降り、無事に開業することができました。本当に私一人では物件を探すことも、お金を調達することもできなかったと思います。
おいしいお菓子が生まれる愛用のコンベクションオーブン
─ これから紀美野町で何かを始めたいと考えている人に、アドバイスはありますか?
松本:とりあえず「やりたいです」と一歩踏み出してみることですね。役場や商工会に行って相談すれば、みんなが助けてくれます。「あの人は顔が広いから紹介してあげる」といった風に、人から人へと繋がっていくんです。都会のように人が多すぎて埋もれてしまうこともないですし、本当に温かい町だと思います。ご近所の高齢の方々も、「若いんやから頑張れ!」と愛のある応援をしてくれます。
─ 店舗の内装も、とても居心地が良いですね。
松本:この店舗は、空き家バンクで購入した母屋についていた「おまけの倉庫」をリノベーションしたものです。「壁は漆喰風で、床は木に」とだけお願いして、田舎の風景に合うシンプルな空間にしました。店内のテーブルや椅子、素敵な器の数々は、実はヴィラ・アイーダの小林シェフから譲っていただいたものが多いんです。のんびりできる癒しの空間を目指しました。
シンプルながら居心地のよい空間
農のある暮らしと
ここでしか作れないお菓子への探求
農のある暮らしと
ここでしか作れないお菓子への探求
─ ご自身の畑で栽培もされているんですよね。今後の構想を教えてください。
松本:春になったら、敷地内にハーブ園を作る予定です。お客さまが自分で好きなハーブを摘んで、それでフレッシュなハーブティーをお出しできたら素敵だと思いませんか。レモンやミカンの木も植えて、自家製の柑橘ティーなんかも出せたらいいですね。ただ、今年植えたミカンは、すでに鹿に食べられてしまったので、対策に頭を悩ませていますね(笑)。
─ 紀美野町ならではの食材を使った新作のアイデアなどはありますか?
松本:祖母の畑で採れたぶどう山椒をお菓子に使いたいと思っています。一度ジェラートを作ってみたんですが、ちょっと特有のシビレが強すぎたので、今度は香りを移した練乳を炊いて、ミルクジェラートにしたら面白そうだななどと構想しています。
あとは焼きたてミルフィーユですね。持ち帰り前提のミルフィーユは、パイ生地を冷まして作らないとクリームが溶けてしまいますが、ここで召し上がっていただくのであれば、焼きたてパイのミルフィーユもできるのではないかと。ここだからこそ表現できるお菓子をどんどん作っていきたいです。
確かな腕と独創性が光るお菓子
─ ホテル時代から場所も働き方も大きく変わりました。
松本:今は試行錯誤しながらですが、自分のペースで、本当に作りたいものを自由に作れています。お客さまがスフレの膨らみを見て「うわぁ!」とはしゃいでいる姿を目の前で見られるのが、何より嬉しいです。これからも、和歌山の旬の食材を使って、ここでしか味わえない最高の状態のデザートをお届けしていきたいです。
─ 本日は貴重なお話をありがとうございました。
里山の夕暮れの中にたたずむPâtifer 【パティフェル】
※記事の内容は2026年3月31日時点のものです
松本 和樹(KAZUKI MATSUMOTO)/ オーナーパティシエ
◎◎年生まれ 和歌山県岩出市出身
大阪、神戸の高級ホテルでパティシエとして10年以上研鑽を積む。2020年、和歌山へ帰郷し「ヴィラ・アイーダ」での研修や祖母の畑での農作業を経験。食材と向き合う新たな価値観に触れ、2025年10月、紀美野町に焼き菓子と出来立てデザートのお店「Pâtifer 【パティフェル】」をオープン。
Pâtifer 【パティフェル】
和歌山県海草郡紀美野町松瀬219-4
営業時間:12:00〜14:00(14:00以降は要予約、貸切がなければ16:00まで営業)
Tel 073-497-5655




